最終更新: 2026-07-01
日本の醤油メーカーは2024年時点で1,013社。そのうち千葉県が出荷量全体の約37.6%を占め、日本の食卓を支え続けている(日本醤油協会調べ)。一方で、この伝統ある調味料を「自分の手で仕込んでみたい」と考える人が増えている。「興味はあるけれど、何から始めればいいのかわからない」「市販のキットでは物足りない」――そんな声に応えるため、本記事では醸造の現場で受け継がれてきた知見をもとに、醤油の作り方を仕込みから搾りまで一連の工程として丁寧に解説する。材料の選び方、麹づくりの温度管理、諸味の発酵メカニズム、そして搾りのタイミングまで、初めての方にもわかるよう順を追って紹介していく。
醤油づくりの全体像:始める前に知っておくこと
手作り醤油は、時間こそかかるものの、工程そのものは決して複雑ではない。大きく分けると「麹づくり」「仕込み」「発酵・熟成」「搾り」の4段階で構成される。家庭で仕込む場合も、醸造所で行われる工程の本質は変わらない。
| 項目 | 目安 |
|---|---|
| 仕込みから完成まで | 6ヶ月~1年(熟成期間による) |
| 材料費(1L分) | 約500~1,000円 |
| 難易度 | 中級(麹づくりにやや注意が必要) |
| 必要な作業時間 | 仕込み日に約4~5時間、以降は週1回の攪拌 |
| 仕込みに適した時期 | 11月~4月(冬季が最適) |
醤油づくりの仕込み時期は冬からゴールデンウィーク前が一般的とされる。これは麹をつくる際に品温を冷ます必要があることと、諸味の初期段階では低温環境のほうが良質な発酵につながるためだ。夏場に仕込む場合は、室温管理により注意を払う必要がある。
醸造の現場では「一麹、二仕込み、三手入れ」という言葉がある。麹の出来が醤油の品質の8割を決めるともいわれ、この工程に最も神経を使う。家庭での醤油づくりにおいても、この優先順位は変わらない。
なお、醤油の原材料の選び方については別記事で詳しく解説しているため、大豆や小麦の品種選びに迷った際はあわせて参照してほしい。
自家製醤油に必要な材料と道具
基本の材料(約1Lの醤油を仕込む場合)
醤油の原料はきわめてシンプルで、大豆・小麦・塩・水の4つだけで成り立つ。醸造所ではこれに麹菌(種麹)を加え、微生物の力で発酵を進める。
| 材料 | 分量 | 選び方のポイント |
|---|---|---|
| 大豆(丸大豆) | 500g | 国産の新豆が理想。脱脂加工大豆でも可だが、丸大豆のほうが風味に深みが出る |
| 小麦(玄小麦) | 500g | 硬質小麦が適している。炒って香ばしさを引き出す |
| 食塩 | 約300g | 天然塩(粗塩)を推奨。ミネラル分が発酵を助ける |
| 水 | 約1.5L | 塩水として使用。カルキを抜いた浄水が望ましい |
| 種麹(醤油用) | 約2g | 醤油用のAspergillus sojaeまたはA. oryzaeを使用 |
配合の基本比率は「大豆1:小麦1:塩水3」とされている。塩水の濃度は約20%(重量/容量)が適当で、大豆1kgに対して塩約600g、水を加えて計3Lとするのが標準的な目安となる。
必要な道具
- 大きめの鍋または圧力鍋(大豆を煮るため)
- フライパンまたは焙烙(小麦を炒るため)
- すり鉢またはミキサー(小麦を粗く砕くため)
- 麹づくり用のバット・布巾(麹蓋の代用)
- 仕込み容器(ホーロー容器・ガラス瓶・甕など。金属製は避ける)
- 布袋またはさらし(搾り用)
- 温度計(麹の品温管理に必須)
- 重し
容器の選択は仕上がりに影響する。醸造の世界では木桶が最上とされるが、家庭では衛生管理のしやすいホーロー容器やガラス瓶が現実的だ。金属容器は塩分で腐食するため使用しない。
醤油の作り方|6つのステップで仕込みから搾りまで
ここからは具体的な手順を解説する。醸造所で行われる工程と対比しながら、家庭で再現可能な方法を示していく。醤油の製造工程の全体像を先に把握しておくと、各ステップの意味がより深く理解できるだろう。
Step 1:大豆の浸漬と蒸煮(1日目)
大豆を水に一晩(12~18時間)浸す。大豆が十分に吸水すると、重量は乾燥時の約2.2倍になる。浸漬後、圧力鍋で30~40分、通常の鍋であれば4~5時間かけてやわらかく煮る。
蒸煮のポイントは「指で軽くつぶせる硬さ」に仕上げること。硬すぎると麹菌が繁殖しにくく、やわらかすぎると仕込み後に形が崩れすぎて搾りにくくなる。醸造所ではNK式蒸煮缶と呼ばれる加圧蒸煮装置を使い、115℃前後で蒸すことでタンパク質の変性を最適化している。
煮汁は捨てずに取っておくと、後の塩水調製で活用できる。
Step 2:小麦の焙煎と破砕(1日目)
小麦をフライパンまたは焙烙で中火にかけ、全体がきつね色になるまで10~15分ほど炒る。焦がさないよう絶えずかき混ぜ、ポップコーンのように弾ける粒が出てきたら火を止める。
炒り上がった小麦は冷ましてから粗く砕く。すり鉢やミキサーで2~3割が粉状、残りが粗い粒のままになる程度が目安だ。粉が細かすぎると通気性が悪くなり麹の生育に支障が出る。
小麦の焙煎は醤油特有の香ばしい香りの源となる。この工程を丁寧に行うことで、完成した醤油の風味に大きな差が生まれる。
Step 3:製麹(麹づくり)(2~4日目)
この工程が醤油づくりの核心部分であり、最も繊細な作業となる。蒸煮した大豆と焙煎・破砕した小麦をよく混合し、品温が40℃以下に下がったところで種麹を振りかけ、全体にまんべんなく混ぜ込む。
混合物をバットに2~3cmの厚さに広げ、清潔な布巾をかぶせて保温する。麹菌の生育に適した温度は28~32℃で、3日間この温度帯を維持する必要がある。
| 経過時間 | 品温の目安 | 状態と作業 |
|---|---|---|
| 0~12時間 | 28~30℃ | 静置して保温。発酵器やこたつの中で温度を保つ |
| 12~18時間 | 30~32℃ | 第1回手入れ(切り返し)。全体をほぐして酸素を供給する |
| 24~30時間 | 32~35℃ | 第2回手入れ。品温が上がりすぎたら薄く広げて放熱する |
| 42~48時間 | 30~32℃ | 麹の完成。全体が黄緑色の胞子で覆われ、栗のような香りがする |
| 72時間 | 28~30℃ | 出麹。3日目には胞子が十分に回り、醤油麹として完成 |
麹づくりで最も注意すべきは品温の上昇だ。麹菌は代謝によって自ら熱を発するため、放置すると45℃を超えて菌が死滅してしまう。24時間前後の「手入れ」で温度を下げ、同時に新鮮な空気を送り込むことが良質な麹を仕上げるための鍵となる。
麹の基本的な作り方については麹の作り方の記事でも詳しく解説している。
Step 4:塩水の調製と仕込み(4~5日目)
完成した醤油麹を仕込み容器に入れ、あらかじめ調製した塩水を注ぐ。塩水の濃度は18~20%が標準で、塩分が低すぎると腐敗のリスクが高まり、高すぎると発酵が進みにくくなる。
塩水の作り方は、水1.5Lに対して塩300gを溶かすと約20%の濃度になる。塩が完全に溶けるまでよくかき混ぜること。
麹と塩水を合わせたものを「諸味(もろみ)」と呼ぶ。仕込み直後は麹が塩水の上に浮くが、数日で全体がなじんでくる。容器の口は清潔な布で覆い、虫が入らないようにしつつ通気性を確保する。
この時点で容器に日付ラベルを貼っておくと、熟成期間の管理に役立つ。
Step 5:発酵・熟成と天地返し(1ヶ月目~)
仕込みが終わったら、あとは微生物たちの仕事だ。醤油の発酵では、麹菌・乳酸菌・酵母菌の3種類の微生物が順番に活躍する。
まず麹菌がつくり出した酵素(プロテアーゼやアミラーゼ)が大豆のタンパク質をアミノ酸に分解し、うま味の基盤をつくる。続いて乳酸菌がブドウ糖から乳酸を生成してpHを下げ、雑菌の繁殖を抑えながら味をまろやかに整える。最後に酵母菌がアルコールを生み出し、有機酸と反応して醤油特有の複雑な香りを形成する。
日常の管理で行うべきは「天地返し(攪拌)」だ。週に1回程度、容器の底から全体をかき混ぜて酸素を送り込み、諸味全体の発酵を均一にする。
| 熟成期間 | 諸味の状態 | 管理のポイント |
|---|---|---|
| 仕込み~1ヶ月 | 麹が溶け始め、液が茶色く色づく | 週1回の天地返し。仕込み3週間は冷暗所で低温管理 |
| 1~3ヶ月 | 乳酸発酵が進み、酸味が出てくる | 天地返しを続ける。泡が出たら酵母が活動している証拠 |
| 3~6ヶ月 | 色が濃くなり、醤油らしい香りが立つ | 夏の高温期を経ることで発酵が進む。味見をして熟成度を確認 |
| 6ヶ月~1年 | 諸味が落ち着き、味に深みが出る | 好みの風味になったら搾りへ進む |
醤油の熟成期間は一般的に6ヶ月~1年だが、2年以上熟成させる「長期熟成醤油」もある。味見をしながら自分好みの熟成度を見極めることが、手作り醤油ならではの醍醐味だ。
Step 6:搾り(圧搾)と火入れ
熟成が進み、好みの風味に達したら搾りの工程に入る。清潔なさらし布や布袋に諸味を入れ、自然に液が滴り落ちるのを待つ。最初に出てくる液が最も濃厚で、これを「生揚げ(きあげ)醤油」と呼ぶ。
搾りの手順は以下の通りだ。
1. さらし布を敷いたザルを大きなボウルの上にセットする
2. 諸味を布の上に広げ、まず自然落下で液を集める(約半日)
3. その後、布を絞って残りの液を搾り出す
4. 搾った液を一晩静置し、底に沈殿した澱(おり)を取り除く
搾った後の「生揚げ醤油」はそのままでも使えるが、保存性を高めるには火入れを行う。鍋に生揚げ醤油を入れ、弱火で80~85℃まで加熱し、10~30分ほど維持する。沸騰させると風味が飛ぶため、温度計で確認しながら慎重に進める。火入れにより酵素の活動が止まり、殺菌効果も得られる。
火入れ後に再度澱引きをすれば、透き通った自家製醤油の完成だ。清潔な瓶に移して冷蔵庫で保存すれば、約半年は風味を保てる。
なお、搾った後に残る固形物は「醤油粕」と呼ばれ、漬物の床や調味料として活用できる。捨てずに二次利用するのも、醸造の現場では当たり前の知恵だ。
失敗しないためのコツと注意点
家庭での醤油づくりでよくある失敗とその対策をまとめた。醸造所の職人が新人に伝えるポイントと本質的に同じ内容だ。
| よくある失敗 | 原因 | 対策 |
|---|---|---|
| 麹に白カビや黒カビが生えた | 品温の管理不足、雑菌の混入 | 道具を熱湯消毒し、麹づくり中は品温28~32℃を厳守する |
| 諸味から異臭がする | 塩分濃度が低すぎて腐敗菌が繁殖 | 塩水濃度18~20%を守る。仕込み後に味見して塩味を確認 |
| 発酵が進まない | 温度が低すぎる、または種麹の量が不足 | 冬場は暖かい場所に移す。種麹は規定量を守る |
| 色が薄い・風味が弱い | 熟成期間が短い | 最低6ヶ月は熟成させる。夏を1回越すと風味が格段に増す |
| 搾った醤油が濁る | 澱引きの工程を省略している | 搾り後に一晩静置し、上澄みだけを瓶に移す |
特に重要なのは衛生管理だ。仕込み容器や道具は使用前に必ず熱湯消毒し、天地返しの際も清潔なヘラや手を使う。醸造の現場では「蔵の衛生は醤油の品質そのもの」として最も基本的な心構えとされている。
手作り醤油と市販醤油の違いを知る
自分で仕込んだ醤油と市販品にはどのような違いがあるのか。原料と製法の面から整理しておこう。
| 比較項目 | 手作り醤油(本醸造) | 市販品(一般的な濃口醤油) |
|---|---|---|
| 原料 | 丸大豆・小麦・塩 | 脱脂加工大豆・小麦・塩(アミノ酸液を添加する場合も) |
| 製法 | 天然醸造(非加熱、自然発酵) | 本醸造が主流だが、加温発酵で期間短縮するメーカーも |
| 発酵期間 | 6ヶ月~2年 | 3~8ヶ月 |
| 香りの複雑さ | 300種以上の香り成分が自然に生まれる | 製法により異なるが、手作りの方が複雑で奥行きがある傾向 |
| 保存料 | 不使用 | アルコール添加で保存性を高める製品もある |
| コスト | 材料費のみで安価だが手間がかかる | 手軽に入手可能 |
醤油には濃口・薄口・たまり・再仕込み・白醤油の5種類があり、自家製で仕込む場合もこの分類を意識するとよい。醤油の種類と違いを把握した上で、まずは最もスタンダードな濃口醤油から挑戦するのがおすすめだ。
丸大豆を使った本醸造の手作り醤油は、市販品では出会えない複雑な風味を生み出す。大豆に含まれる油脂分が発酵過程でグリセリンに変化し、醤油にまろやかさと厚みを与えるためだ。
醤油の作り方に関するよくある質問
Q1:醤油づくりに最適な時期はいつですか?
冬(11月~2月)が最適な仕込み時期とされている。理由は3つある。まず、麹づくりの際に品温を冷ましやすいこと。次に、低温環境で仕込むことで初期の雑菌繁殖リスクが下がること。そして、春から夏にかけて気温が上昇する過程で自然に発酵が活発になり、良質な醤油ができることだ。ただし、室温管理を徹底すれば夏場の仕込みも不可能ではない。
Q2:手作り醤油キットを使う場合と一から仕込む場合の違いは?
市販の手作り醤油キットは、あらかじめ醤油麹が完成した状態で届くため、最も難しい「製麹」の工程を省略できる。初めて醤油づくりに挑戦する方にはキットがおすすめだ。一方、一から仕込む場合は麹の出来を自分でコントロールでき、より深い理解と醸造の実体験が得られる。蔵人への第一歩として、まずキットで感覚をつかみ、2回目から自分で麹を仕込むという段階的なアプローチも有効だろう。
Q3:完成した手作り醤油の保存期間はどれくらいですか?
火入れをした醤油を清潔な瓶に入れ冷蔵庫で保存すれば、約6ヶ月は風味を保てる。火入れをしない生醤油の場合は冷蔵保存で2~3ヶ月が目安だ。いずれの場合も開封後は冷蔵庫に入れ、清潔な器具で取り出すことで品質を維持できる。
Q4:仕込み中に白い膜が浮いてきたのですが、失敗ですか?
白い膜は「産膜酵母」と呼ばれる微生物で、醤油づくりではよく見られる現象だ。害はないが、風味に影響を与えることがあるため、見つけたら清潔なスプーンで取り除き、天地返しの頻度を増やすとよい。塩分濃度が適正であれば大きな問題にはならない。
Q5:脱脂加工大豆と丸大豆、どちらを使うべきですか?
家庭での醤油づくりには丸大豆をおすすめする。脱脂加工大豆は油脂分を除去しているため発酵効率は高いが、丸大豆に含まれる油脂が発酵過程でグリセリンに変わり、醤油に独特のまろやかさと深みを加える。市販品の約80%は脱脂加工大豆を使用しているが、手作りだからこそ丸大豆の風味を楽しむ価値がある。
Q6:諸味の天地返しを忘れてしまった場合、どうなりますか?
数週間程度であれば品質に大きな影響はない。ただし、長期間放置すると表面に産膜酵母が発生しやすくなり、諸味の発酵が不均一になる。気づいた時点でしっかりと天地返しを行い、以降は週1回の攪拌を再開すれば問題ない。
Q7:醤油づくりの経験を仕事に活かすことはできますか?
自家製醤油の仕込み経験は、醸造業界への第一歩として有効だ。麹の扱いや発酵管理の基礎を体で理解していることは、蔵元への就職面接でも評価される。醤油メーカーへの就職を検討している方は、[醤油メーカーの就職・年収情報](https://jozo-navi.jp/brewing/shoyu-maker-shushoku-nenshu/)も参考にしてほしい。
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関連記事: 醤油ポン酢とは?ポン酢との違いと手作りレシピを醸造の視点で徹底解説
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まとめ:醤油の作り方のポイント
手作り醤油のポイントを振り返ろう。
- 基本の配合比率は「大豆1:小麦1:塩水3」。塩水濃度は18~20%を守る
- 麹づくりが品質の8割を決める。品温28~32℃の維持と適切な手入れが最重要
- 発酵では麹菌・乳酸菌・酵母菌の3種の微生物が順番に働き、うま味・酸味・香りを生み出す
- 天地返しは週1回。夏を越すと風味が格段に深まる
- 火入れ(80~85℃、10~30分)で保存性を高め、澱引きで透明感のある醤油に仕上げる
醤油づくりは、日本の醸造文化を自分の手で体験できる貴重な営みだ。まずはキットから始めてもよい。仕込んだ諸味が少しずつ色づき、香りを放ち始める過程を見守る時間は、何物にも代えがたい。
醤油の種類や特徴をさらに深く知りたい方は、醤油の種類と違いの記事もあわせてご覧いただきたい。また、醤油と同じく大豆を原料とする魚醤に興味がある方は、魚醤の作り方も参考になるだろう。
参考情報
- 日本醤油協会「醤油のデータ」(https://www.soysauce.or.jp/knowledge/data)
- 農林水産省「しょうゆの製造法」(https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/c_propanol/soysauce.html)
- 職人醤油「醤油づくりの微生物(麹菌・乳酸菌・酵母菌)」(https://s-shoyu.com/knowledge/0707/)
- 職人醤油「醤油造りに適した時期」(https://s-shoyu.com/knowledge/0512/)
- 職人醤油「醤油メーカーと出荷量の推移」(https://s-shoyu.com/knowledge/0804/)


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