「soy sauce」と「shoyu」のどちらが本当の英語なのか、疑問に思ったことはないだろうか。日本の食卓に欠かせない醤油が、海外ではどのように呼ばれ、どのように理解されているのか。実は、英語の「soy(大豆)」という言葉そのものが、醤油から生まれたという事実をご存じだろうか。
醤油は、日本の発酵食品のなかでも世界輸出の最前線に立つ存在だ。農林水産省の統計によれば、2023年の醤油輸出額は約100億円にのぼり、前年同期比で2割以上の伸びを見せるほど国際的な需要が急拡大している。その一方で、「soy sauce」と「shoyu」の違いを明確に説明できる人は、醤油の産地で働く蔵人の間でも意外に少ない。
本記事では、醤油の英語名の語源から種類別の英語表現、実際に使える会話フレーズまでを体系的に解説する。醸造の現場で働く方はもちろん、これから醤油業界に携わりたい方や、外国人のお客様と接する機会が増えている方にとって、醸造文化の国際化を深く理解するための一助としていただきたい。
醤油の英語は「soy sauce」が基本 — 2つの呼び方の違い

醤油の英語表現として最もよく使われるのは「soy sauce」だ。スーパーマーケットやレストランのメニュー、料理レシピなど、英語圏の日常生活では「soy sauce」が標準的な呼び方として定着している。
一方、「shoyu(しょうゆ)」は日本語の発音をそのままローマ字表記にした言葉で、日本食レストランや日本料理に関心の高い層を中心に広く使われている。特にアメリカのハワイ州では、醤油は日常的に「shoyu」と呼ばれており、「can you pass the shoyu?(醤油取って)」という会話が当たり前のように交わされる。
2つの呼び方の使い分けを整理すると、以下のようになる。
| 呼び方 | 主な使用場面 | ニュアンス |
|---|---|---|
| soy sauce | 英語圏全般、スーパー、レストランメニュー | 一般的な英語表現。醤油全般を指す |
| shoyu | 日本食レストラン、ハワイ、日本料理愛好家 | 日本式醤油を特定するニュアンスがある |
| Japanese soy sauce | 他国産の醤油と区別したいとき | 日本産であることを明示する表現 |
近年では、世界中でさまざまな種類の「soy sauce」が流通するようになり、中国産、韓国産(カンジャン)、インドネシア産(ケチャップマニス)など、産地や製法の異なる醤油類が市場に存在する。そのため、日本の醤油を指す際には「shoyu」あるいは「Japanese soy sauce」を使うことで、より正確に伝えることができる。
醸造の現場で働く蔵人が外国人バイヤーや訪問者と話す際には、「This is shoyu, Japanese soy sauce made by traditional fermentation(これは日本伝統の発酵醸造で作られたしょうゆです)」という表現が自然で伝わりやすい。
「soy」という言葉は醤油から生まれた — 語源が示す驚くべき歴史

「大豆(ダイズ)」の英語は「soybean」だ。しかし語源を辿ると、豆の名前が醤油から来ているという、少し意外な歴史が見えてくる。
英語の「soy」という言葉は、17世紀にオランダ語の「soya(またはsoja)」から英語に入ってきた。そのオランダ語の「soya」は、日本語の「醤油(soyu/shoyu)」が語源とされている。さらに遡ると、日本語の「醤油」は中国語の「豉油(チーユウ)」に由来しており、「豉(チー)」は発酵大豆を、「油(ユウ)」は液体・油を意味する。
なぜオランダ語が仲介したのか。それは江戸時代の鎖国政策に深く関係している。1633年以降、ヨーロッパとの貿易が許されていたのはオランダのみ(東インド会社)だった。1640年代から、オランダ東インド会社は日本の醤油をヨーロッパやインドネシア(当時のバタビア)へ輸送し始めた。その際、日本語の「醤油(shoyu)」がオランダ語に取り込まれ、ヨーロッパ全体に「soya」「soja」という言葉が広まった。
やがて西洋人が醤油の原料となる「大豆(ダイズ)」を認識したとき、すでに広まっていた「soy」という言葉を豆に充てた。その結果、「soy+bean=soybean(大豆)」という言葉が生まれた。つまり「soybean」という英語名は、植物の名前から醤油が生まれたのではなく、醤油(の名称)から大豆の名前が生まれたということになる。
醤油の語源を示す年表
| 年代 | 出来事 |
|---|---|
| 3世紀以前 | 中国で「醢(ひしお)」「豉(くき)」など発酵調味料が誕生 |
| 鎌倉時代(13世紀頃) | 禅宗の僧侶を通じて中国の「醤(ジャン)」の文化が日本へ |
| 室町〜江戸初期 | 日本独自の液体醤油(醤油)として発展 |
| 1643年 | 「料理物語」に醤油の記述。当時は高価な珍味だった |
| 1640年代 | オランダ東インド会社が日本の醤油をヨーロッパへ輸出開始 |
| 1670年代 | 英語に「soy」という言葉が登場(オランダ語「soya」から) |
| 1765年頃 | 西洋で大豆が「soybean」と呼ばれるようになる |
| 19世紀 | キッコーマンなど大型醸造蔵が輸出を本格化 |
| 現代 | 日本産醤油の輸出額は年間約100億円超(農水省・2023年) |
この歴史を知ると、日本の醤油文化がいかに世界の食文化と言語に影響を与えてきたかが実感できる。蔵元で醸造に携わる者として、この事実を胸に刻んでおく価値は大いにある。
醤油の種類を英語で説明する — 種類別対訳テーブル

日本には大きく分けて5種類の醤油がある。JAS(日本農林規格)はこれらを「こいくち」「うすくち」「たまり」「さいしこみ」「しろ」の5種に分類している。外国人の方に醤油の種類を説明する際、英語でどう表現すればよいかをまとめた。
| 種類(日本語) | 英語表現 | 特徴の英語説明 |
|---|---|---|
| こいくち醤油 | Koikuchi soy sauce / Dark soy sauce | Most common type; deep umami flavor; made from equal parts soybeans and wheat |
| うすくち醤油 | Usukuchi soy sauce / Light soy sauce | Lighter color, but actually saltier (18–19% sodium); preserves the natural color of ingredients |
| たまり醤油 | Tamari soy sauce | Thick, rich umami; little or no wheat; often gluten-free; great for sashimi and glazing |
| 再仕込み醤油 | Saishikomi soy sauce / Double-fermented soy sauce | Brewed twice using soy sauce instead of salt water; intensely rich in flavor |
| 白醤油 | Shiro shoyu / White soy sauce | Very pale golden color; delicate flavor; mainly used in high-end Japanese cuisine |
「Light soy sauce」と聞くと、カロリーや塩分が低いように思えるが、実際はうすくちは最も塩分が高い醤油だ。「light」は色の明るさを指しているに過ぎない。この誤解は外国人に説明する際に特に注意が必要で、外国人観光客の多い飲食店や醸造場での見学ガイドなどで頻繁に混乱が生じる。
また、「gluten-free(グルテンフリー)」の観点から、たまり醤油は小麦を使用しないか最小限に抑えているため、海外ではグルテン不耐性のお客様向けの醤油として非常に注目されている。醸造場で外国人バイヤーと交渉する際、この点を強調すると大きな差別化になる。
各種醤油の詳しい製法や特徴については、「醤油の種類と違いを徹底解説」「たまり醤油とは何か」「再仕込み醤油とは」「白醤油の使い方」の各記事もあわせてご参照いただきたい。
海外で通じる!醤油を英語で説明するフレーズ集
醸造場での外国人観光客の受け入れや、海外販路開拓を担う営業担当者にとって、醤油を英語で説明する力はますます重要になっている。以下に、実際の現場で使える英語フレーズをまとめた。
醤油の基本説明
“Shoyu is a traditional Japanese fermented condiment made from soybeans, wheat, salt, and koji mold.”
(醤油は、大豆・小麦・塩・麹菌を原料とした日本の伝統的な発酵調味料です。)
“Unlike many condiments, shoyu’s flavor comes from a fermentation process that takes anywhere from six months to three years.”
(多くの調味料とは異なり、醤油の旨みは6か月から3年にわたる発酵によって生まれます。)
製造工程の説明
“We start by growing koji mold on a mix of steamed soybeans and roasted wheat. This creates the enzymes that break down proteins into amino acids, which is what gives shoyu its deep umami flavor.”
(蒸した大豆と炒った小麦を混ぜ、麹菌を育てることから始めます。この麹が酵素を生み出し、タンパク質をアミノ酸に分解することで、醤油の深い旨みが生まれます。)
“The fermented mash, called moromi, is pressed to extract the liquid. That liquid is then pasteurized — or in some cases left raw as nama-shoyu — and bottled.”
(発酵させた諸味(もろみ)を搾って液体を取り出します。この液体を火入れするか、一部は生醤油(なま醤油)として瓶詰めします。)
種類の違いを説明するとき
“When we say ‘light soy sauce,’ we don’t mean low-sodium. It refers to the lighter color. In fact, it’s actually saltier than regular soy sauce.”
(「ライトソイソース(薄口醤油)」は塩分が少ないという意味ではありません。色が薄いという意味で、実際は通常の醤油より塩辛いです。)
“Tamari is closer to the original soy sauce recipe from China. It uses little to no wheat, so it has a richer, thicker flavor — and many people with gluten sensitivities choose tamari.”
(たまりは、中国の醤油の原形に近い製法です。小麦をほとんど使わないため、濃厚でコクのある味わいとなり、グルテンが気になる方にも選ばれています。)
購入・お土産の案内
“This bottle is our premium aged shoyu, fermented for three years in traditional cedar barrels. It pairs beautifully with sashimi or a simple bowl of rice.”
(こちらは伝統的な杉樽で3年熟成させたプレミアム醤油です。刺身や白いご飯との相性が格別です。)
日本の醤油が世界に広まった歴史 — 江戸時代からの輸出の道
日本の醤油が初めて海外に届いたのは、江戸時代初期のことだ。前述のとおり、1640年代にオランダ東インド会社がバタビア(現ジャカルタ)やヨーロッパへ醤油を送り始めた。記録によれば、17世紀のヨーロッパでは醤油は宮廷料理にも使われる高級調味料だったという。フランスのルイ14世のシェフも、醤油を料理に活用していたとされる。
明治維新以降、キッコーマン(当時の野田醤油)をはじめとする大手醸造蔵が輸出を本格化させた。1868年(明治元年)以降、醤油は日本の輸出品として重要な位置を占めるようになり、南米のブラジルやアメリカなど、日系移民が多く住む地域を中心に醤油文化が根付いていった。
20世紀後半、日本食(日本食レストランのブーム、寿司の世界的普及)とともに醤油への需要は爆発的に拡大した。1990年代以降は「umami(旨み)」という言葉が英語圏でも広く認知されるようになり、醤油はその旨みを体現する代表的な調味料として国際的な地位を固めた。
現在では、醤油はほぼ全世界に輸出されており、スーパーマーケットでの取り扱いも珍しくない。日本の蔵元の醤油だけでなく、アメリカや中国、ヨーロッパでも「local shoyu」が生産されるようになっているが、日本産の本醸造醤油の品質と文化的背景への評価は依然として高い。
日本の醤油輸出をデータで見る — 輸出額と主要市場
農林水産省の貿易統計をもとにした輸出データからは、日本の醤油が世界に広まっている現状がよく見えてくる。
2023年の醤油輸出実績(財務省貿易統計をもとに農林水産省作成)によると、醤油の輸出額は約100億円規模に達しており、2024年1〜6月は前年同期比で約2割増という勢いで拡大している(日本経済新聞2024年8月報道)。
2023年の主要輸出先シェア(参考)
| 輸出先 | シェア(概算) |
|---|---|
| アメリカ | 約17〜18% |
| 中国 | 約8% |
| 台湾・香港 | 数% |
| オーストラリア | 数% |
| EU圏 | 伸長中 |
アメリカは最大の輸出先であり、日系スーパーや一般的なスーパーマーケットでも日本産醤油が販売されている。中国市場は中国産の醤油が主流だが、高品質な日本産醤油の需要が富裕層を中心に高まっている。ヨーロッパでは、日本食レストランの増加とともに「shoyu」ブランドの認知が急速に進んでいる。
こうした輸出拡大の背景には、健康志向の高まりと「umami」への関心がある。人工甘味料や過剰な添加物を避けるトレンドのなかで、天然の発酵調味料である醤油は「clean label(清潔なラベル)」食品として評価されている。
日本醤油協会(Japan Soy Sauce Association)によると、国内の醤油生産量は近年緩やかに減少傾向にあるが、輸出量は増加を続けており、国内外でのブランド価値維持が蔵元にとって重要な課題となっている。
醤油の製造工程や歴史については、「醤油の製造工程を徹底解説」「醤油の歴史」の記事もあわせてご覧いただきたい。
醤油の英語表現 — よくある質問(FAQ)
Q1. 醤油は英語でsoy sauceとshoyuのどちらが正しいですか?
どちらも正しい英語表現です。「soy sauce」は英語圏全般で通じる一般的な名称で、「shoyu」は日本の醤油を特定して指す場合や、日本食に精通した文脈で使われます。より正確に日本産を伝えたい場合は「Japanese soy sauce(shoyu)」と両方を組み合わせると伝わりやすくなります。
Q2. 英語のsoy(大豆)は醤油から来たのですか?
はい、その通りです。英語の「soy」はオランダ語「soya/soja」を経由して、日本語の「醤油(soyu/shoyu)」に由来しています。江戸時代にオランダ東インド会社が醤油をヨーロッパに輸出したことで、「soy」という言葉が広まり、後に大豆を「soybean(soy + bean)」と呼ぶようになりました。大豆の英語名が醤油から来ているというのは、食の文化交流を示す興味深い事実です。
Q3. 「light soy sauce(薄口醤油)」は塩分が少ないですか?
いいえ、これは非常によくある誤解です。「light soy sauce」の「light」は色が薄いことを意味しており、塩分やカロリーの少なさを指すのではありません。うすくち醤油の食塩含有量は18〜19%程度で、こいくち醤油(16〜17%程度)よりも実際には高塩分です。外国人のお客様に説明する際は必ずこの点を補足するようにしましょう。
Q4. tamariはグルテンフリーですか?
たまり醤油は一般的に小麦の使用量が非常に少なく、製品によってはまったく使用しない場合もあります。ただし「グルテンフリー」を厳密に保証するためには、製造工程でのコンタミネーション(混入)防止を含めた認証が必要です。海外輸出向けにグルテンフリー認証を取得しているたまり醤油製品も存在します。グルテン過敏症(セリアック病)のある方には、必ずラベルの確認を促してください。
Q5. 外国人の方に醤油を説明するとき、最初に何と言えばよいですか?
シンプルで印象的な一言から始めるとよいでしょう。たとえば次のような説明が効果的です。”Shoyu is Japan’s liquid gold — a fermented sauce that took more than a year to make, and gives food that deep, savory flavor called ‘umami’.”(醤油は日本の液体の黄金です。1年以上かけて発酵させた調味料で、「旨み」と呼ばれる深みのある風味を食材に与えます。)「liquid gold」というフレーズと「umami」の組み合わせは、英語圏の方に醤油の価値を直感的に伝える言い回しとして効果的です。
Q6. 「soy sauce」と「soya sauce」の違いは何ですか?
意味は同じです。「soy sauce」はアメリカ英語での呼び方で、「soya sauce」はイギリス英語での呼び方です。どちらも醤油を指します。なお「soja」はドイツ語・フランス語圏での表記です。
まとめ — 醤油の英語を知ることは、醸造文化の国際化を知ること
醤油の英語表現「soy sauce」と「shoyu」の違いを整理すると、そこには驚くほど豊かな歴史と文化交流が詰まっていることがわかる。英語の「soy」という単語そのものが、日本の醤油文化がオランダを経由してヨーロッパに伝わった証左だ。
現代においては、日本の醤油輸出額は年々増加しており、2024年は前年比で2割増という勢いで拡大している。醸造の現場で働く蔵人にとって、英語で醤油を説明できる力は、もはやキャリアの選択肢を広げる重要なスキルのひとつとなっている。
醤油の英語表現の要点まとめ
- 「soy sauce」は英語圏全般で通じる標準表現
- 「shoyu」は日本産醤油を特定する際に有効
- 英語の「soy」という語は日本語の「醤油」が語源
- 「light soy sauce(薄口醤油)」は色が薄いだけで塩分は高い
- たまりはグルテンフリー対応として海外で注目度上昇中
- 日本の醤油輸出は拡大中で、国際的な醸造家キャリアの機会が増えている
醤油の歴史と文化への理解を深めることで、国内の醸造現場だけでなく、輸出業務や海外展開、インバウンド向けの蔵元ツアーなど、醸造キャリアの可能性は大きく広がる。醤油という発酵食品が持つ深みを、ぜひ言語という入口から探ってみていただきたい。
参考情報
本記事の執筆にあたり、以下の情報源を参照・確認した。
- 農林水産省「農林水産物・食品の輸出実績(品目別)」2023年
- 財務省「貿易統計 醤油輸出実績」2023年・2024年
- Online Etymology Dictionary「soy」「soya」語源記録(1670年代)
- 日本醤油協会 公式資料
- 職人醤油「soybeansは醤油が由来」(s-shoyu.com/knowledge/1004/)
- Kikkoman Corporation「History of Kikkoman Soy Sauce」(kikkoman.com)
- 日本経済新聞「調味料老舗が食品輸出を下支え しょうゆ・みそが2割増」(2024年8月)
- SoyInfo Center「History of Soy Sauce, Shoyu, and Tamari」

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