柿酢は、熟した柿を瓶に仕込んで常温で置いておくだけで作れる発酵調味料です。柿に含まれる糖分が野生の酵母によってアルコールに変わり、続いて酢酸菌がそのアルコールを酢酸へと変える、二段階の自然発酵によってできあがります。砂糖や麹、種酢などの添加物は一切不要で、熟した柿さえあれば渋柿・甘柿のどちらからでも仕込めます。仕込みから1〜2ヶ月で泡立ちが収まれば完成の目安ですが、より深い酸味とまろやかさを求めるなら3ヶ月〜半年ほど熟成させる仕込み方もあります。この記事では、仕込みの手順と、発酵中に出る「安全な膜」と「危険なカビ」の見分け方、絞り方・保存方法までを解説します。
柿酢の全体像:始める前に知っておくこと

| 項目 | 目安 |
|---|---|
| 所要時間 | 仕込みから完成まで1〜2ヶ月(より熟成させる場合は3ヶ月〜半年) |
| 費用 | 柿代のみ(瓶・布は手持ちのものでよい) |
| 難易度 | ★☆☆(仕込みは簡単。日々の見守りが必要) |
| 必要なもの | 熟して柔らかくなった柿、広口のガラス瓶、布またはペーパータオル、輪ゴム |
なぜ柿だけで酢になるのか?発酵の仕組み

柿酢は、添加物を使わずに柿だけで酢になる珍しい発酵食品です。その理由は、柿の皮の表面に付着している野生の酵母と、空気中に存在する酢酸菌が順番に働くためです。
まず、柿に含まれる糖分を皮の表面の野生酵母が分解し、アルコール発酵が起こります。これは日本酒やワインが作られるときと同じ、酵母による糖のアルコール化です。次に、空気中から入り込んだ酢酸菌がこのアルコールを酸化させ、酢酸へと変えていきます。酢ができる仕組みで解説したとおり、一般的な食酢もこの「アルコール発酵→酢酸発酵」という二段階の工程を経ており、柿酢は原料の柿自体が糖分とアルコール発酵の起点を兼ねている点が特徴です。
このため、柿酢を仕込む際は柿を洗わないことが推奨されています。表面の野生酵母を洗い流してしまうと、発酵のきっかけが失われてしまうためです。醸造酢と合成酢の違いで触れたJAS規格の「食酢」は酢酸発酵を経た製品を指しますが、柿酢もこの酢酸発酵の工程を経ているため、仕組みの上では米酢や穀物酢と同じ「醸造酢」の一種にあたります。
柿酢の作り方【ステップ解説】

Step 1: 柿を準備する
熟して色が濃くなり、柔らかくなった柿を用意します。渋柿・甘柿のどちらでも仕込めます。皮の表面にいる野生酵母が発酵の主役になるため、柿は水洗いしません。ヘタを手で取り除くだけにしてください。
Step 2: 瓶に仕込む
柿を丸ごと、またはヘラなどで潰しながらガラス瓶に押し込みます。瓶の7〜8分目まで詰めるのが目安です。空気に触れる面が多いとカビやすくなるため、できるだけ隙間なく詰めるのがポイントです。瓶の口は布やペーパータオルで覆い、輪ゴムでしっかり留めます(密閉できるフタは発酵中のガスが抜けず危険なため使いません)。
Step 3: 発酵を見守る
常温の直射日光が当たらない場所に置き、1日1回はヘラなどでかき混ぜます。3日ほどで柿が柔らかく崩れ始め、1ヶ月ほどすると泡立ちが活発になります。混ぜても泡が出なくなったら、アルコール発酵と酢酸発酵が落ち着いたサインです。1〜2ヶ月が完成の目安です。
Step 4: 熟成・絞る
そのまま使い始めてもよいですが、より熟成させたい場合は3ヶ月〜半年ほど置いてから絞ると、酸味がまろやかになります。ざるや布(お茶パックなど)で2回ほど濾すと、果肉が取り除かれた澄んだ柿酢になります。
失敗しないためのコツ・注意点

柿酢作りで最もつまずきやすいのが、「カビ」と「発酵の正常なサイン」の見分けです。
| 発酵中に見られるもの | 正体 | 対処 |
|---|---|---|
| 表面にできる白い膜 | 産膜酵母や酢酸菌の膜 | 害はないため、すくって取り除くか混ぜ込んでそのまま継続してよい |
| 赤・青・黒などカラフルでふわふわした菌糸 | 腐敗菌(カビ) | 安全のため、その柿酢は廃棄する |
| 小さな虫(ウジ虫) | 瓶の隙間からハエが産卵した跡 | 安全のため廃棄する |
産膜酵母とは?で解説したとおり、白い膜状のものの多くは産膜酵母や酢酸菌自体の膜で、見た目は心配になりますが害はありません。一方で、色のついたふわふわの菌糸が生えた場合は腐敗菌によるカビなので、迷わず廃棄してください。カビを防ぐには、瓶に柿をできるだけ隙間なく詰めて空気に触れる面を減らすことと、1日1回かき混ぜて表面に偏りを作らないことが基本の対策になります。
柿酢の栄養と注意点

柿酢の原料である柿は、ビタミンCが豊富な果物として知られています。文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」によると、甘柿(生)のビタミンC含有量は可食部100gあたり70mgで、温州みかん(生、32mg/100g)のおよそ2倍にあたります。また、柿にはタンニン(ポリフェノールの一種)も含まれています。ただし、これらは生の柿の栄養データであり、発酵・熟成の過程でどの程度変化するかまで検証したデータは確認できていないため、柿酢そのものの含有量として断定はできません。
酢と血圧の関係については、大阪公立大学が2022年6月24日に発表した40歳以上の男女1,498名を対象とした食生活調査で、月1回以上酢の物を食べる男性は食べない男性より血圧が低い傾向にあることが報告されています。これは酢の物を食べる習慣全般についての調査結果であり、柿酢に限定した研究ではない点に注意してください。
柿酢は酸性度が高いため、飲用する場合は水や炭酸水で薄めるのが基本です。摂取量の目安は1日あたり大さじ1〜2杯程度とされ、原液のまま大量に飲むと胃や歯に負担をかける可能性があります。
保存方法と使い方
完成した柿酢は、口の細い瓶に移し替え、空気に触れる部分を減らすようにフタをしっかり閉めて保存します。保存場所は冷暗所が基本で、15〜20℃程度の温度変化が少ない場所が適しています。より保存性を高めたい場合は、瓶ごと65℃前後のお湯で20分ほど加熱し、雑菌の活動を止める方法もあります。
使い方は、ドレッシングや酢の物など料理の酸味づけのほか、水や炭酸水で10倍程度に薄めて飲むのもおすすめです。果実酢ならではのやさしい甘みと酸味があるため、黒酢の効果・飲み方で紹介したような飲用酢の選択肢としても使えます。
よくある質問
Q1: 渋柿でも甘柿でも柿酢は作れますか?
どちらでも作れます。渋柿特有の渋み成分(タンニン)は水溶性ですが、発酵・熟成が進む過程で変化していくため、渋柿を使った場合も最終的には渋みの少ない酢になります。
Q2: 柿酢と梅酢は同じ「酢」という名前ですが違いはありますか?
製法がまったく異なります。[梅酢とは?](https://jozo-navi.jp/vinegar-mirin/umezu-towa/)で解説したとおり、梅酢は塩の浸透圧によって梅から水分と有機酸が引き出される現象で、酢酸発酵をしていません。一方、柿酢は野生酵母によるアルコール発酵と酢酸菌による酢酸発酵という、実際の発酵工程を経てできる酢です。名前は似ていますが、科学的な成り立ちは別物です。
まとめ:柿酢作りのポイント
- 材料は熟した柿のみで、渋柿・甘柿どちらでも仕込める
- 柿の糖分を野生酵母がアルコールに変え、酢酸菌がそれを酢酸に変える二段階発酵でできる
- 完成の目安は仕込みから1〜2ヶ月、熟成させる場合は3ヶ月〜半年
- 白い膜は産膜酵母・酢酸菌の膜で無害だが、カラフルなふわふわのカビは廃棄する
- 瓶に柿を隙間なく詰め、1日1回かき混ぜることがカビ予防の基本
柿酢の発酵の仕組みがもっと気になった方は、酢ができる仕組みもあわせて読むと、酢酸菌の働きがより体系的に理解できます。
柿酢と同じように、野生の菌だけで自然発酵させる酢は他の地域にも残っています。鹿児島県奄美大島では、サトウキビの搾り汁だけを原料に長期熟成させる「きび酢」が伝統的に作られており、きび酢とは?サトウキビから生まれる奄美の天然酢と黒酢との違いで製法や黒酢との違いを解説しています。
この記事は醸造ナビ編集部が執筆しました。醸造ナビは発酵・醸造の専門メディアです。
詳しくは編集部についてをご覧ください。
参考情報
- 自宅で柿酢をつくる【準備と仕込み編】|hakko izm.(2026年10月14日確認、仕込み手順・発酵期間の目安を確認)
- 柿酢の効果効能とは|簡単な作り方とカビや膜が出たときの対処法も解説(かわしま屋、2026年10月14日確認、カビと産膜酵母の見分け方を確認)
- これって失敗?柿酢作りでまさかの困った!!こんな時どうしたらいいの?(2026年10月14日確認、カビ発生時の対処法を確認)
- 柿酢の作り方 材料は柿だけで簡単に作れます – かんろぐ(2026年10月14日確認、渋柿・甘柿いずれも可であることを確認)
- 文部科学省 食品成分データベース(日本食品標準成分表)(2026年10月14日確認、甘柿・温州みかんのビタミンC含有量を確認)
- 酢の物摂取習慣と血圧の関係を明らかに|大阪公立大学(2022年6月24日発表、2026年10月14日確認)


コメント