さんまの塩麹漬けの作り方|旬の脂を活かす漬け込み時間と焼き方の科学

さんまが旬を迎える9〜10月は、脂の乗った一尾を家庭でどう活かすかが腕の見せどころです。塩だけで焼く「塩焼き」も定番ですが、塩麹に漬けてから焼くと、麹菌(Aspergillus oryzae)の酵素の働きで身がふっくらと柔らかくなり、旨みも増します。

ただし、さんまは鶏肉よりも筋繊維が繊細なため、塩麹に漬けすぎると身が崩れてベチャッとした食感になってしまいます。本記事では、醸造ナビ編集部が発酵科学の観点から、さんまの塩麹漬けに適した下処理・漬け込み時間・焼き方・保存方法までを徹底解説します。

さんまの塩麹漬けが美味しくなる理由——魚と肉の違い

塩麹の3つの酵素とさんまへの働き方

塩麹は、米麹に塩と水を加えて発酵させた調味料です。麹菌が生成する3種類の酵素が、漬け込んださんまに段階的に作用します。

プロテアーゼ(タンパク質分解酵素)は、さんまの筋肉を構成するタンパク質を分解し、身を柔らかくすると同時に、グルタミン酸などの旨み成分(アミノ酸)を生み出します。鶏肉の唐揚げ用の塩麹漬けでも同じ酵素が働きますが、魚の筋繊維は肉よりも短く繊細な構造をしているため、同じ漬け込み時間でも分解が進みやすい点に注意が必要です。

アミラーゼ(デンプン分解酵素)は、塩麹に含まれるでんぷんを糖に分解し、自然な甘みを生み出します。この糖分が焼いたときのメイラード反応(焼き色・香ばしさを生む反応)を促進しますが、糖分が多い分、鶏肉の塩麹唐揚げと同様に焦げやすくなる原因にもなります。

リパーゼ(脂肪分解酵素)は、さんまが豊富に含む脂肪を分解し、香り成分の前駆体を生み出します。さんまはもともと脂の乗った青魚であるため、リパーゼの働きによって焼いたときの香ばしさがより引き立ちます。

魚は肉より「漬けすぎ注意」な理由

鶏肉の塩麹唐揚げでは1〜2時間の漬け込みが推奨されますが、さんまのような魚の切り身・一尾ものは、短時間でも酵素が浸透しやすく、長時間漬けると身が水っぽく崩れやすくなります。一般的な魚の塩麹漬けレシピでは、切り身で30分〜1時間、一尾ものでも半日(6〜8時間程度)を目安とし、鶏肉のように翌日まで漬け込むことは避けるのが基本です。

さんまの栄養とプロテアーゼが効きやすい理由

文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」によると、さんま(皮つき・生、食品番号10173)の栄養成分は100gあたり次のとおりです。

  • エネルギー:287kcal
  • たんぱく質:18.1g
  • 脂質:25.6g
  • ビタミンD:16.0μg

さんまは青魚のなかでも脂質が多く、EPA・DHAなどの不飽和脂肪酸を豊富に含むことで知られています。この脂質の多さが、塩麹のリパーゼによる香り生成と相性が良い理由のひとつです。

さんまの旬は8月下旬〜10月で、北海道・三陸沖で水揚げが始まり、南下するにつれて脂が乗っていきます。脂の乗った旬のさんまほど塩麹漬けの効果を実感しやすいため、9〜10月は特におすすめの時期です。

新鮮なさんまを選ぶポイント

塩麹漬けに限らず、さんまを美味しく調理するには鮮度が重要です。選ぶ際は次の点を目安にしてください。

  • 口先が黄色い:鮮度が良いさんまは下あごの先端が黄色みを帯びています。
  • 体に張りがあり、背が青黒く光っている:表面のうろこやぬめりに艶があるものが新鮮です。
  • お腹が硬く締まっている:指で軽く触れて弾力があるものを選びましょう。内臓が溶け始めると身が柔らかくなります。

鮮度の良いさんまほど下処理後の身割れが少なく、塩麹の浸透も均一になりやすい傾向があります。

塩焼きと塩麹漬けの違い

さんまの定番調理法である「塩焼き」と「塩麹漬け」は、どちらも塩分で下味をつける点は共通していますが、仕組みが異なります。

項目 塩焼き 塩麹漬け
下味の方法 塩を振って浸透圧で水分を抜く 塩麹の酵素が作用し、旨み成分を生成する
身の食感 身が締まる 酵素分解によりふっくら柔らかくなる
旨み 魚本来の旨みのみ 魚の旨み+麹由来のアミノ酸・糖が加わる
焦げやすさ 標準的 糖分が多く焦げやすいため火加減に注意
下処理後の工程 塩を振って10〜20分置くだけ 塩麹を塗って30分〜半日漬け込む

時間がないときは塩焼き、ひと手間かけて旨みを引き出したいときは塩麹漬けという使い分けがしやすくなります。

基本のさんま塩麹漬けレシピ

材料(さんま2尾分)

  • さんま:2尾
  • 塩麹:大さじ2(約30g、さんまの重量の約10%が目安)
  • お好みで:しょうが(すりおろし)小さじ1

下処理の手順

1. うろこと頭・内臓を取る

さんまの表面を軽くこすってうろこを落とします。頭を切り落とし、腹を開いて内臓を取り除きます。内臓を残したまま漬けると臭みが出やすいため、必ず取り除いてください。

2. 洗って水気を拭き取る

流水で腹の中までしっかり洗い、キッチンペーパーで表面と腹の内側の水気を丁寧に拭き取ります。水分が残っていると塩麹が薄まり、漬かりが均一になりません。

3. 塩麹を塗って漬け込む

さんまの表面と腹の中に塩麹を薄く塗り広げます。ポリ袋または保存容器に入れ、冷蔵庫で30分〜半日(6〜8時間)漬け込みます。一尾をそのまま漬ける場合は半日程度、小さめに切った切り身であれば30分〜1時間で十分です。

4. 塩麹を軽く拭って焼く

漬け終わったら、塩麹を完全に洗い流さず、表面についた余分な塩麹だけをキッチンペーパーで軽く拭き取ります。塩麹を残しすぎると、アミラーゼが生み出した糖分で焦げやすくなるため注意しましょう。

焼き方——焦がさないための温度管理

塩麹に含まれる糖分はメイラード反応を促進するため、普通の塩焼きよりも焦げやすい性質があります。以下の手順を目安にしてください。

  • 両面焼きグリルの場合:中火〜強めの中火で7〜8分程度。表面の色づきを見ながら、焦げそうであれば火を弱めるかアルミホイルを軽くかぶせます。
  • 片面焼きグリルの場合:盛り付けたときに表に見える面(身側)を先に5分程度、裏返して皮目を3〜4分程度焼きます。
  • 焼く前のひと手間:焼く10分ほど前に表面の水分を軽く拭き取っておくと、皮がパリッと仕上がりやすくなります。

焼き色がつきにくい弱火でじっくり焼くと、身の水分が抜けてパサついた食感になりやすいため、中火以上でやや短時間に仕上げるのがコツです。

漬け込み時間別の仕上がりの違い

漬け込み時間 酵素の働き方 仕上がりの特徴
30分 表面のみに作用 軽い下味づけ。塩焼きに近いあっさりした仕上がり
1〜3時間 表面から内部へ浸透 ほどよい旨みと柔らかさが出る
半日(6〜8時間) 全体に浸透(推奨の上限) 最も旨みが豊かでしっとりした仕上がり
1日以上(冷蔵のまま) 分解が進みすぎる 身が水っぽく崩れやすくなるため避ける

半日を超えて漬け込みたい場合は、冷蔵保存を続けるのではなく、後述の下味冷凍に切り替えるのがおすすめです。

アレンジレシピ

しょうが塩麹漬け

基本の塩麹にすりおろししょうが小さじ1を混ぜて漬け込むと、さんま特有の青魚の香りが和らぎ、さっぱりとした後味になります。

塩麹みりん漬け

塩麹大さじ2にみりん小さじ1を加えて漬け込むと、みりんの糖分がほんのりとした甘みと照りを加えます。みりんを加える分、通常よりもさらに焦げやすくなるため、焼く際はより弱めの火加減を意識してください。

塩麹酒粕漬け

塩麹大さじ1と酒粕大さじ1を混ぜて漬け込むと、酒粕由来の香りとコクが加わり、居酒屋のメニューのような仕上がりになります。漬け込み時間は基本と同じく半日を目安にしてください。

保存方法と日持ちの目安

塩麹に漬けたさんまは、冷蔵保存であれば漬け込み開始から1日程度を目安に使い切るのが安全です。すぐに使わない場合は、漬けた状態のまま1尾ずつラップで包み、冷凍用保存袋に入れて冷凍すると、約1ヶ月保存できます(下味冷凍)。

解凍する際は、冷凍庫から冷蔵庫へ移し、半日程度かけてゆっくり解凍してください。急速に常温解凍すると、塩麹の酵素反応が一気に進み、身が崩れやすくなります。解凍後は当日中に焼き切りましょう。

よくある質問(FAQ)

Q. 塩麹の量はさんま1尾に対してどのくらいが目安ですか?

さんまの重量の約10%が目安です。一尾(可食部を含めた重量で約100〜120g程度)に対して、塩麹小さじ2〜大さじ1程度を表面と腹の中に薄く塗り広げてください。塩分が強すぎると感じる場合は量を減らして調整しましょう。

Q. うろこや内臓を取らずに漬けてもいいですか?

内臓を残したまま漬けると、内臓由来の苦みや臭みが身に移りやすくなるため、必ず頭と内臓を取り除いてから漬け込むことをおすすめします。うろこも口当たりに影響するため、できるだけ取り除いてください。

Q. 漬けすぎて身が崩れてしまいました。どうすればいいですか?

一度崩れた身の食感を元に戻すことはできません。崩れてしまった場合は、そのまま焼いてほぐし身にし、炊き込みご飯やお茶漬けの具材として活用するのがおすすめです。次回は半日を超えない漬け込み時間を守りましょう。

Q. 冷凍したさんまを塩麹に漬けてもいいですか?

可能です。冷凍さんまは冷蔵庫でゆっくり解凍してから下処理を行い、通常と同じ手順で塩麹に漬けてください。解凍時に出た水分はしっかり拭き取ってから塩麹を塗ることで、漬かりが均一になります。

Q. 塩麹に漬けたさんまは煮付けやフライパン焼きにも使えますか?

使えます。フライパンで焼く場合は、薄く油を引いた中火で皮目から焼き、両面に焼き色がついたら蓋をして弱火で2〜3分蒸し焼きにすると中まで火が通ります。煮付けにする場合は、塩麹の塩分があるため、しょうゆや砂糖の量をいつもより控えめにして味を調整してください。

Q. 市販の塩麹と手作りの塩麹で漬け込み時間は変わりますか?

市販の塩麹は製品ごとに酵素活性や塩分濃度が調整されているため、同じ分量でも仕上がりに差が出ることがあります。手作りの塩麹は麹の鮮度が高いほど酵素活性が強く出やすいため、まずは短めの30分〜1時間から試し、味を見ながら次回以降の時間を調整するのがおすすめです。

Q. さんま以外の青魚でも同じ手順で塩麹漬けにできますか?

あじ・さば・いわしなど他の青魚でも、基本的な手順は同じように応用できます。ただし、さばのように身が厚い魚はやや長めに、いわしのように身が薄い魚は短めに漬け込み時間を調整してください。いずれの魚も半日程度を上限の目安にすると失敗しにくくなります。

下ごしらえから食卓までの時間の流れ(例)

平日の夕食で作る場合のタイムスケジュールの一例です。

1. 朝(出かける前):さんまの頭と内臓を取り、水洗いして水気を拭き取る。塩麹を塗って保存容器に入れ、冷蔵庫へ。

2. 帰宅後(約8〜10時間後):冷蔵庫から取り出し、余分な塩麹を軽く拭き取る。

3. 調理:グリルを中火で予熱し、7〜8分焼く。焼き色を見ながら火加減を調整する。

4. 食卓へ:大根おろしやすだちを添えて完成。

朝に仕込んでおけば、帰宅後は焼くだけで済むため、忙しい日の献立にも取り入れやすい方法です。

盛り付けと献立の組み合わせ

さんまの塩焼きには大根おろしとすだち(またはかぼす)を添えるのが定番です。大根おろしの水分と酸味は、さんまの脂っぽさを和らげる役割があり、塩麹漬けで旨みが増した身とも相性が良い組み合わせです。すだちの果汁を軽く絞ることで、塩麹由来の塩味と糖分のバランスが取りやすくなります。

献立としては、塩分の高い塩麹漬けと合わせるため、味噌汁や副菜は薄味に調整すると、1食あたりの塩分摂取量を抑えやすくなります。

関連記事: 発酵食品で肌荒れ・じんましん?原因のヒスタミンを農水省データで解説

まとめ

さんまの塩麹漬けのポイントを整理します。

  • プロテアーゼ・アミラーゼ・リパーゼの3酵素が、身を柔らかくし旨みと香ばしさを引き出す
  • 魚は肉よりも酵素が浸透しやすいため、漬け込みは半日(6〜8時間)を上限の目安にする
  • 塩麹の量はさんまの重量の約10%が目安
  • 焼く前に余分な塩麹を軽く拭き取り、焦げやすい性質を踏まえて中火〜強めの中火で短時間に仕上げる
  • すぐに使わない場合は冷蔵で1日以内、それ以上は下味冷凍で約1ヶ月保存できる

旬のさんまが持つ脂と、塩麹の発酵の力を組み合わせることで、塩焼きとはひと味違う奥行きのある一尾に仕上がります。鶏肉での塩麹活用に慣れている方は、ぜひ魚でも試してみてください。

塩麹の基本的な使い方や代用品については塩麹の代用品ガイドを、鶏肉での活用法は塩麹唐揚げレシピ完全ガイドをあわせてご覧ください。

参考情報

  • 文部科学省「食品成分データベース」日本食品標準成分表(八訂)増補2023年 食品番号10173 さんま皮つき生(https://fooddb.mext.go.jp/details/details.pl?ITEM_NO=10_10173_7)
  • あいち産業科学技術総合センター「あいち産業科学技術総合センターニュース」2017年3月号No.180・塩麹の酵素活性に関する調査(https://www.aichi-inst.jp/other/up_docs/no180_03.pdf)
  • 中曽根麹屋「魚の塩麹漬け焼き」塩麹での魚の漬け込み時間の目安(https://nakasone-kojiya-shop.com/blogs/コラム/shiokoji-sakana-tsukeyaki)
  • 季節のみより「塩麹の下味冷凍」保存期間の目安(https://kisetsumimiyori.com/shiokouji_shitaaji/)




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