最終更新: 2026-09-28
「乳酸菌 睡眠」で検索すると、乳酸菌飲料やヨーグルトの広告が数多く出てきます。結論から言うと、特定の乳酸菌株を使った研究では睡眠の質が改善したという報告が複数あります。ただし、その効果は研究で使われた菌株に固有のものであり、味噌汁やぬか漬けなど伝統的な発酵食品を食べれば同じ効果が得られると保証するものではありません。この記事では、腸内細菌が睡眠に影響する仕組み(腸脳相関)、実際に睡眠改善が報告されている乳酸菌株の研究データ、そして発酵・醸造の専門メディアの視点から、伝統的な発酵食品でどこまで期待できるかを整理します。
乳酸菌と睡眠の関係|結論から解説

| 疑問 | 結論 |
|---|---|
| 乳酸菌は睡眠に効果があるか | 特定の菌株を使った研究では、睡眠の質の改善が報告されている |
| どの乳酸菌でも同じ効果があるか | いいえ。効果が確認されているのは研究で使われた特定の菌株のみ |
| 味噌汁やぬか漬けを食べれば同じ効果が出るか | 研究で使われた菌株と同じものが含まれているとは限らないため、直接的な効果は保証されない |
| メカニズムは何か | 腸内細菌が神経伝達物質(セロトニン・GABAなど)の産生に関わる「腸脳相関」が関係すると考えられている |
腸内細菌が睡眠に影響する仕組み|腸脳相関とは

腸と脳は自律神経やホルモンを介して互いに影響し合っており、この関係は「腸脳相関」と呼ばれています。国立大学法人筑波大学と慶應義塾大学先端生命科学研究所が2020年11月に発表したマウスを使った研究では、腸内細菌を持たない無菌マウスは通常のマウスに比べて、精神を安定させる働きを持つセロトニンが有意に減少し、逆に神経の活動を抑えるグリシンとGABA(γ-アミノ酪酸)が有意に増加していました。さらに、無菌マウスでは睡眠期のノンレム睡眠が減少し、活動期にはノンレム睡眠とレム睡眠が増加するなど、睡眠パターンそのものに乱れが見られたことが報告されています。
セロトニンは日中の精神安定に関わるだけでなく、夜間に睡眠ホルモンであるメラトニンの材料にもなる物質です。腸内細菌がこうした神経伝達物質の産生や量の調整に関わっていることから、腸内環境が睡眠の質に影響を与える可能性が研究されています。腸内細菌と発酵食品の関わり方については、腸内細菌と発酵食品の関係を解説した記事でも詳しく紹介しています。
睡眠改善が報告されている乳酸菌株|研究データを比較

「乳酸菌が睡眠に効く」とされる研究の多くは、乳酸菌全般ではなく特定の菌株を使ったものです。しかも実験の対象はヒトとは限りません。代表的な研究を、対象・方法・時点をそろえて整理しました。
| 菌株・製品 | 研究機関・発表元 | 対象・方法 | 報告された内容 | 時点 |
|---|---|---|---|---|
| 乳酸菌シロタ株(LcS) | 徳島大学研究グループ | 学術試験を控えた医学部4年次の学生94人を対象とした二重盲検プラセボ対照試験。LcS入り発酵乳100mlを、試験の8週間前から試験終了後3週間まで(計11週間)飲用 | 脳波測定で深い眠り(ノンレム睡眠)の指標に有意な改善、起床時の眠気(すっきり感)のスコアも改善 | 2017年「Beneficial Microbes」誌掲載 |
| 乳酸菌 SBT2227株 | 名古屋大学とのニューロサイエンス研究センター産学協同研究講座(雪印メグミルクが保有する菌株) | ショウジョウバエを用いた研究。学術雑誌「iScience」に掲載 | 夜間の睡眠量の増加、入眠までの時間の短縮を確認。加熱・破砕しても効果が消えないことも報告 | 2022年7月28日発表(論文掲載は同年7月15日) |
| 乳酸菌 SBL88(Lactobacillus brevis SBC8803株) | サッポロビールと産業技術総合研究所(産総研)の共同研究 | マウスを用いた研究。菌を混ぜた餌を4週間与えた後、ストレス負荷を2週間かけて活動量を測定 | ストレス性の睡眠障害を改善する効果を確認。GABAを産生する株であることが分かっている | 2012年7月24日発表 |
このうちヒトを対象とした研究は乳酸菌シロタ株(LcS)のものであり、しかも「学術試験を控えた大学生のストレス性の睡眠の乱れ」という限定的な状況での結果です。なお、このLcSはヤクルトなどの乳製品乳酸菌飲料に使われている菌株と同じ系統で、後年発売された高濃度製品にも採用されています。SBT2227株とSBL88はそれぞれショウジョウバエ・マウスでの実験結果であり、ヒトでも同じ効果が得られるとは言い切れません。また、これらはいずれも特定の1菌株を一定量、一定期間継続して摂取する条件で行われた研究です。市販のヨーグルトや乳酸菌飲料であっても、含まれる菌株や量が異なれば同じ効果は期待できません。「乳酸菌入り」という表示だけで睡眠効果を判断しないことが大切です。
伝統的な発酵食品の乳酸菌との違い|期待できることと限界
味噌・醤油・ぬか漬け・甘酒といった日本の伝統的な発酵食品には、植物由来の乳酸菌(植物性乳酸菌)をはじめ、多様な菌が含まれています。これらは製法や原料によって菌の種類・数が大きく異なり、上記の研究で使われたような特定の1菌株を狙って一定量摂取できる設計にはなっていません。菌の種類ごとの違いは、乳酸菌の種類と違いを解説した記事で整理しています。
そのため、「味噌汁を飲めば乳酸菌飲料の研究と同じように眠れるようになる」と直接結びつけることはできません。一方で、発酵食品を日常的に摂ることは腸内細菌のえさとなる食物繊維や乳酸菌そのものを供給し、腸内環境を豊かにする土台づくりにはつながると考えられています。腸活と発酵食品の関係については、発酵食品の腸活効果を解説した記事も参考になります。伝統的な発酵食品は「特定の睡眠改善効果が確認された製品」ではなく、「腸内環境を整える選択肢のひとつ」として位置づけるのが実態に近い理解です。
今日から試せる腸内環境と睡眠のための習慣
睡眠改善を目的に乳酸菌を取り入れる場合、次の点を意識すると腸内環境を整えやすくなります。
| 習慣 | ポイント |
|---|---|
| 継続して摂る | 紹介した研究も数週間単位の継続摂取で効果が確認されている。数日で判断しない |
| 食物繊維と組み合わせる | 腸内細菌のえさとなる食物繊維(野菜・海藻・穀類)と発酵食品を一緒に摂る |
| 摂りすぎない | 発酵食品には塩分・糖分を含むものもある。適量の目安は[乳酸菌の摂りすぎで起こることを解説した記事](https://jozo-navi.jp/fermentation/nyusankin-torisugi/)を参照 |
| 睡眠の基本習慣も見直す | 就寝前のカフェイン・アルコール、就寝時間のばらつきなど、生活習慣全体との組み合わせで考える |
よくある質問
Q1: ヨーグルトなら何でも睡眠に効果がありますか?
いいえ。睡眠改善が報告されているのは、研究で使われた特定の菌株を一定量含む製品です。同じ「乳酸菌入り」表示でも、菌株が異なれば同じ効果は期待できません。
Q2: 味噌汁やぬか漬けを毎日食べれば眠れるようになりますか?
直接的な睡眠改善効果を確認した研究はありません。ただし、腸内環境を整える選択肢のひとつとして、日常的に取り入れる価値はあります。
Q3: 効果が出るまでどのくらいかかりますか?
紹介した徳島大学の研究では11週間の継続摂取で睡眠の質の指標に変化が見られています。即効性を期待するものではなく、継続を前提に考える必要があります。
関連記事: 乳酸菌とは?発酵のしくみと味噌・醤油での役割を解説
関連記事: 植物性乳酸菌とは?動物性との違いと腸に届く仕組み
まとめ:乳酸菌と睡眠でおさえておきたいポイント
- 睡眠改善が報告されているのは乳酸菌全般ではなく、研究で使われた特定の菌株に限られる
- 腸内細菌はセロトニンやGABAなど神経伝達物質の産生に関わり、これが「腸脳相関」として睡眠に影響すると考えられている
- 味噌・醤油・ぬか漬けなど伝統的な発酵食品の乳酸菌は多様だが、研究された特定株とは別物であり、直接的な睡眠改善効果は保証されない
- 腸内環境を整える土台づくりとして、継続摂取・食物繊維との組み合わせ・摂りすぎない量を意識する
乳酸菌の働き全般については乳酸菌の効果を解説した記事、摂りすぎで起こる不調については乳酸菌の摂りすぎを解説した記事もあわせてご覧ください。
この記事は醸造ナビ編集部が執筆しました。醸造ナビは発酵・醸造に特化した専門メディアです。
詳しくは編集部についてをご覧ください。
参考情報
- 国立大学法人筑波大学・慶應義塾大学先端生命科学研究所「腸内細菌がいなくなると睡眠パターンが乱れる」プレスリリース(2020年11月16日発表、確認日2026年9月28日)https://www.tsukuba.ac.jp/journal/medicine-health/20201117200209.html
- 国立大学法人名古屋大学「乳酸菌SBT2227株が睡眠を促進する効果を発見~睡眠に対する社会課題の解決への貢献が期待~」研究成果情報(2022年7月28日発表、論文掲載2022年7月15日「iScience」、確認日2026年9月28日)https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/2022/07/sbt2227.html
- 国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)「乳酸菌にストレス性睡眠障害改善効果を発見」プレスリリース(サッポロビール株式会社との共同研究、2012年7月24日発表、確認日2026年9月28日)https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2012/pr20120724/pr20120724.html
- Takada et al.「Beneficial effects of Lactobacillus casei strain Shirota on academic stress-induced sleep disturbance in healthy adults」Beneficial Microbes 8(2), 153-162(2017年発表、確認日2026年9月28日)https://brill.com/view/journals/bm/8/2/article-p153_2.xml


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